ウミガメの産卵

ウミガメの産卵 ~見守るしかない親の愛と子供の人生

ウミガメの産卵

生命は故郷に還る

サケの回遊と産卵や不老不死のベニクラゲなど、海の生き物には不思議な回帰を辿るものが多いです。

ウミガメもその一種で、満月の夜、砂浜に産み付けられた卵が一斉に孵化し、海に向かって泳ぎ始める姿は、感動を通り越して、畏敬の念さえ感じさせます。

存在理由と深海の生き物にも書いていますが、生物が生きるのに理由などなく、生きる為に生きる、ただそれだけなんですね。

【小説の抜粋】 満月の夜とウミガメのお母さん

採鉱プラットフォームの接続ミッションに向けて、現場の緊張も高まる中、マードック夫妻の粋な計らいでヴァルターとリズは海岸をデートする。

ヴァルターは「ハメられた」と怒り心頭だが、マードック夫妻は「お似合いのカップル」とけしかける。

しかし、彼のリズへの返答は思いがけないものだった。

関連のあるエピソード →
・ 親は死んで子どもの血肉となる ~鮭の産卵より
・ 人間の存在理由と深海の生き物 意味や役割があるから愛されるわけじゃない

あの夜はなぜかしら月が美しく、ふと遠い南の島で目にしたウミガメの産卵を思い出し、その様子をリズに話した。
「満月がね、母親みたいに見守る中、ウミガメの赤ちゃんが次々に卵から孵って、海を目指して歩み始めるんだ。誰に何も教えられなくても、自分の故郷が海だということを知っているんだね」
「迷子になったりしないの?」
「そういう子もいるよ。人間の足ならほんの数十秒の距離でも、ウミガメの赤ちゃんにとっては果てしない道程だ。砂にまみれ、凹みに足をとられ、中にはそのまま力尽きて死んでしまう子もいる。だけど、みんな生きるために海を目指して歩み続ける。月も、人間も、ウミガメの母親さえも、どんなに助けたいと思っても、その子が自力で海に辿り着くのをじっと見守るしかない。親の愛って、いつも側に居て世話を焼くのが全てじゃないんだな。多分、手出しもできずに見守る方がずっと切なく、難しい。それでも、そうやって見守ってくれる人が居るから、子供も生きていける。俺の父親も今は夜空に浮かぶ月と同じだ。俺はただ必死に生きて行くだけ。本当にそれだけだ」
 するとリズの瞳がみるみる潤み、
「なんていじらしいの! 私もそういう場面を見てみたい。一匹、一匹、胸に抱いて、温めてあげたい……」
と両手を胸の前で握りしめた。
 そのあまりの可憐さに、思わず上体が傾きかけた時、後ろからマードック夫妻に声をかけられた。どうやら彼らの数十メートル後ろを付けていたらしい。
「カリーナが『お似合いのカップルだ』と喜んでいた。女性はこういうシチュエーションが大好きなんだ。自分まで青春時代に戻ったみたいでドキドキするらしい」
「俺は君の奥さんを喜ばせるためにここに来たんじゃないよ」

【リファレンス】 ウミガメの産卵

ウミガメの産卵と、子カメの旅立ちは何度観ても泣けますよね(・_・、)

満月の夜、誰に教えられなくても、ちゃんと海に還っていくのがすごいし、また故郷の海に戻ってくるのも不思議。
なんで? と問われても、誰にも答えられないし、彼らが何の為に存在しているのかも謎。
でも、生きている。

そんな赤ちゃんガメを容赦なく襲う猛禽類。さっと掠われて、一瞬で食べられてしまう。自然って、ほんとに過酷です。
こんな中で無事に海に辿り着き、また故郷の海まで戻ってくるなんて、最強にして、長命ですよね。
映画『ラストエンペラー』でも、死の床に就いた皇太后に、ウミガメの甲羅を煮て作った生薬(?)を飲ませるシーンがありましたが、分かるような気がします。大昔の人も知ってたんでしょうね。私たちが目にするウミガメは奇跡的な確率で生き延びた、最強運の生物だってこと。

ウミガメのお母さん。産むだけで、育てなくていいのか……。ある意味、羨ましいような^^; (いやいや、そんな事を言っちゃいかん)
その点、哺乳類は苦労の上をいってますよね。猿でも子育てしてるよ・・・。エライ。

頑張れ、ウミガメちゃん!!

Baby sea turtle on the beach

Baby Green Sea Turtle, Amelia Island, Florida

My Public Lands Roadtrip: Sunny Alabama Shores for National Trails Day!

【小説の抜粋】 ウミガメの産卵 ~親の愛と子どもの人生

採鉱プラットフォームのミッションを通して、次第に心を通わせるようになったヴァルターとリズ。
二人をくっつけたいマードック夫妻の策略(?)で、ヴァルターは思いがけず海岸をリズと散歩するハメになる。
やがて日も暮れて、月が輝き始めた頃、ヴァルターはふと、今まで誰にも話したことのないウミガメの思い出を口にする。

「満月がね、母親みたいに見守る中を、ウミガメの赤ちゃんが次々に卵から孵って、海を目指して一所懸命に歩み始めるんだ。誰にも何も教えられなくても、自分の故郷が海だということを知っているんだね」

「迷子になったりしないの?」

「そういう子もいるよ。人間の足ならほんの数十秒の距離でも、ウミガメの赤ちゃんにとっては果てしない道程だ。砂にまみれ、凹みに足をとられ、中にはそのまま力尽きて死んでしまう子もいる。だけど、みんな生きるために海を目指して歩み続ける。月も、人間も、ウミガメの母親さえも、どんなに助けたいと思っても、その子が自力で海に辿り着くのをじっと見守るしかない。生物の『愛』って、いつも側に居て世話を焼くのが全てじゃないんだな。多分、手出しもできずに見守る方がずっと切なく、厳しい。それでも、そうやって見守ってくれる人が居るから、子供も生きて行ける。俺の父親も今は夜空に浮かぶ月と同じだ。俺はただ必死に生きて行くだけ。本当にそれだけだ」

曙光 -MORGENROOD- 上巻

※ ↓ こちらはボツにした一文

俺は時々、母親と喧嘩して、ステラマリスを出る時も、その手を振りきるようにして出てきた。それでも、あの人が俺を見守る気持ちは変わらない。こんなこと、いちいち照れ臭くて口にできないけど、俺が母親の愛情を一番感じるのはそういう時なんだよ。あの満月みたいにね。だから、俺も必死で生きてる。

【第二章 採鉱プラットフォーム】 のシリーズ

このパートは海洋小説『曙光』(第二章・採鉱プラットフォーム)の抜粋です。詳しくは作品概要をご参照下さい。

第二章 採鉱プラットフォーム Kindle Unlimited版
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水深3000メートルの海台に広がる海底鉱物資源を採掘する為、潜水艇パイロットのヴァルターは洋上プラットフォームの採鉱システムを接続するミッションに参加する。採鉱事業を指揮するアルの娘リズは彼に一目惚れするが、彼の態度は素っ気なく..。Unlimitedなら読み放題。

>海洋小説『曙光』MORGENROOD

海洋小説『曙光』MORGENROOD

宇宙文明の根幹を支える稀少金属ニムロディウムをめぐる企業と海洋社会の攻防を舞台に描く人間ドラマ。生きる道を見失った潜水艇パイロットと愛を求めるフォルトゥナの娘の恋を通して仕事・人生・社会について問いかける異色の海洋小説です。
Kindle Unlimitedなら読み放題。
Amazonの海洋学ランキングで一位を記録した異色作。

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