鉱山会社と金属市場の寡占 ~それでも海洋技術は簡単に真似できない~

鉱山会社と金属市場の寡占 ~それでも海洋技術は簡単に真似できない~

鉱山会社と金属市場の寡占 ~それでも海洋技術は簡単に真似できない~

文明の根幹を成す鉱業

鉱業の難しさは、山でも、海底でも、現存の技術で地中の様子を正確に知ることはできないという点にあると思います。

私が以前、視聴した科学番組では、「現在の技術で正確に把握できるのは、地下10センチほど」という解説がありました。

確かに、地震波を用いた物理探査や、地中のサンプルを採取するボーリング調査、重力探査による地質構造の把握など、いろんな方法がありますが、いずれもデータ解析によって得られる数値やマップから「こうだろう」という予想を導くもので、地中の内部を直視するわけではありません。

たとえば、X線や核磁気共鳴によって、人間の体内の様子を知ることはできますが、実際を知るには、お腹を切開して、直に胃や腎臓を見るしかないわけで、検査結果から得られるデータと、肉眼で見る胃の中の状態には、同等であって、同一ではないわけですね。胃の透視検査で腫瘍の存在が指摘されても、実際に手術して、胃を切開するまでは、その実態が分からないのと似ています。

地下数十センチでも、内部の様子が正確に分からないのに、地下数百メートル、数千メートルとなれば、尚更です。

さらに水深数百メートルから数千メートルの海洋に覆われていれば、海底の地質や地層など、100パーセント正確に分かるわけがありません。

考え得る限り、物理的に正しい数値と推測をもって、「ここにあるだろう」という確率論から資源調査を始めるわけですから、ほんの100メートル四方の海域を調べるにも、調査船を出し、操船スタッフを募集し、様々な調査機器を揃え、、、と莫大な経費と手間がかかります。これほどコストが嵩むぐらいなら、既に存在が分かっている鉱山を掘り返す方が、うんと利口ですよね。ある程度、肉眼で確認できる地上の方が、はるかに分があります。

このパートでは、圧倒的な資本と技術と業績を誇る、世界有数の鉱山会社マイニング社が、MIGの海底鉱物資源の採掘成功を受けて、それじゃ我が社も、と、進出を図ります。そこには様々な思惑があるのですが、政治力でも圧倒的に優れた大企業が乗り込んでくるとあって、MIGの現場は戦々恐々、ここも連中に食い荒らされるのかと暗澹たる気持ちになりますが、ヴァルターだけは、海洋技術の困難を知り尽くしており、簡単には真似できないと確信します。

それよりも、社会的に有益な情報を共有し、計り知れないポテンシャルを秘めた経済特区として世界にアピールすることが、MIGのさらなる発展を促し、マイニング社の寡占を抑制する――というのが、彼の主旨です。

【小説の抜粋】 資源調査権とマイニング社の思惑

海底鉱物資源の採鉱プラットフォームの成功を受けて、ニムロディウム市場を牛耳る巨大鉱山会社ファルコン・マイニング社が、北方の火山島、ウェストフィリアに乗り込んでくる。近海を含む広大な海洋資源調査権を獲得し、鉱物資源の宝庫と目されるウェストフィリアに第二の生産拠点を築く為だ。

自由公正を求めて、未開の植民地アステリアに進出し、ゼロから基盤を築いてきた既存社会が恐々とする中、誰よりも海をよく知るヴァルター・フォーゲルは「巨大資本をもってしても、海の技術は簡単に真似できない」と、怯えるリズを力付ける。

巨大資本に対抗するには、社会の知的基盤を拡充し、情報の透明性と公共性を高めることだと考えたヴァルターは、『海洋情報ネットワーク』の構築に向けて動き始める。

関連のあるエピソード →
・ 鉱業権と鉱山会社の寡占 鉱業法の盲点と情報共有のアイデア

第三章 【海洋情報ネットワーク】のシリーズ

このパートは海洋小説『曙光』(第三章・海洋情報ネットワーク)の抜粋です。詳しくは作品概要をご参照下さい。

※ スマホとタブレットの場合、『PDFで読む』をクリックして下さい。

インディラと話した後、昼食に行くと、食堂では作業員らが壁掛けTVから流れるニュースに釘付けになっている。

ディスプレイには北の高緯度に位置するウェストフィリア島の地図と、周辺の海底および島全土に賦存する金属資源や天然ガスの分布図が映し出され、先週、ファルコン・マイニング社がアステリアのウェストフィリア島全土、約三五〇〇〇平方キロメートル、および周辺の海域四〇〇キロメートル四方に渡って海洋資源調査権を申請したことが報じられている。認可が下りれば、来年春より金属資源探査を目的とした調査が開始され、ステラマリスから専任の技術者や研究員も雇い入れるという。

活動拠点は、現在、ローランド島のペネロペ湾沿岸に建設中の高層オフィスビル『スカイタワー』。

ファルコン・マイニング社は既に六百億エルクの活動資金を保有し、八〇億エルクを資源探査、鉱量把握試錐、陸上選鉱設備や付属港湾設備の建設に当てるという。

ウェストフィリア海域の金属資源のポテンシャルは膨大で、特に海底の硫化物鉱床については、一日平均九千トン、一トンあたり九十五エルクの請負採鉱を計画しており、産業界から注目が集まっているとのことだ。

ニュースが終わると、食堂がにわかに騒がしくなり、

「意外と早かったな」

「一日平均九千トンって、ここの倍じゃないか」

「あんな極地に採鉱基地など建設できるのか」

誰もが不安と懐疑を口にする。

彼はたまたま近くに居たダグとガーフィールドの隣に座ると、

「ファルコン・マイニング社って、そんなに大きな会社なのか?」

と尋ねた。

「鉱山会社としての規模は世界第四位だが、ニムロディウムに関しては採鉱から販売まで市場の九割を独占してる。やってることは阿漕(あこぎ)だが、ニムロディウムが無いことには宇宙船も飛ばないからな」

「なぜファルコン・マイニング社だけがここまで巨大化したんだ?」

「第一に、ニムロデ鉱山というバカでかい鉱床を手に入れた。しかも彼らのバックにはクレディ・ジェネラルというメガバンクがついて、ありとあらゆる業界にコネクションがある。第二に、採掘した原鉱を粉砕して分級洗浄し、高品位の精鉱を回収するノウハウに長けている。たとえ違法採掘でニムロイド鉱石をトラックいっぱいにせしめても、鉱石からニムロディウムを豊富に含む精鉱を分離する技術がなければ使い物にならないということだ。他にもニムロイド鉱石を採掘している会社は幾つかあるが、ファルコン・マイニング社に比べたら、鉱床の規模も選鉱技術も遠く及ばない」

「だが、なぜウェストフィリアに? 陸地の大半が氷原みたいな高緯度の島で、港も、道路も、何も無い所だろう。そんな島で採鉱しようと思ったら、インフラを整えるだけでも莫大な経費が必要じゃないか」

「オレが思うに、ウェストフィリアは口実だね」

ダグがコーヒーをすすりながら言った。

「海洋資源調査権なんてのは、あくまで通行手形に過ぎない。たとえ魚一匹しか見つからなくても、結果はさほど重要じゃないんだよ。それより進出の足がかりとしての意味合いの方が大きい」

「どういう意味?」

「アステリアは経済特区だから、企業活動には細かな規約がある。『税制の優遇や公的扶助を得られる代わりに、事務所や倉庫は区内に設立しなければならない』「最初の一年間で収益の数パーセントから数十パーセントを投資しなければならない』『技術系従業員の四十パーセントをトリヴィア領内から雇用しなければならない』等々。投資や減税目的にペーパーカンパニーを作ったり、用地を買い占めたりするのを防ぐためだ。そこでアステリアに進出するための手っ取り早い方法の一つに『海洋資源調査権』がある。調査するだけだから、特区法で定められた投資も、企業監査も、従業員の雇用も必要ない。期限の半年間、申告した条件で調査を行い、所定のデータをアステリア開発局に提出するだけだ。調査に必要な施設や設備は比較的自由に持ち込めるから、とりあえず権利を取得して、その間に足場を固めればいい。ファルコン・マイニング社も調査の拠点としてローランド島にオフィスを開設し、ウェストフィリアの資源調査に取り組む傍ら、その他の事業拡張の準備を進める手はずなんだろう」

「だが、そんなことをすれば、誰でも調査権を掲げて進出できるじゃないか」

「民間企業がアステリアで海洋資源調査権を取得し、調査を継続するには、開発局に『調査費』を上納しないといけない。一キロ平方メートルにつき月額三百エルクだが、調査範囲が千キロ、二千キロにも及べば、上納金だけで月数百万になる。それを半年、一年と払い続けることを考えれば、資金のない中小企業には到底無理だ」

「なるほど」

「トリヴィア政府も馬鹿じゃない。本当に実力のある企業だけがアステリアで産業活動できるようにフィルタリングしてる。政府にしてみれば、たとえ海洋調査だけでもファルコン・マイニング社が進出してくれるのは有り難いだろう。調査船を一隻走らせるだけで税収になる」

「ファルコン・マイニング社がウェストフィリア海域で得た海洋調査データはどうなるんだ?」

「一部はアステリア開発局に提出されるが、大半は彼らの企業資産になる。もし、彼らがウェストフィリアに排他的な探鉱権を取得したら、もう他の会社は調査にすら入れない。でも、それはファルコン・マイニング社に限ったことじゃない。どこの企業が探鉱権を取得しても同じことだ。鉱業権だけ取得して実際には企業活動を行わない『空の権利者』を阻止する為にそういう制度になった」
「だが、それだと資本や組織力のある大企業だけがアステリアに進出して、小さな会社にはまるでチャンスがない。それも一種の寡占じゃないか」

「そんなことオレに愚痴られても知らんさ」

ダグはコーヒーを飲み干すと、ぶっきらぼうにコーヒーカップを置いた。

「女の前でいい格好したい気持ちは分かるが、お前なんかが逆立ちしたってこの流れは止められん。誰かが黄金の指輪を手にすれば、他の奴らも欲しがる。我も我もと押しかけて、金の亡者が地面を掘り返した後には草木一本残らない。接続ミッションの成功の喜びにひたれるのも、せいぜいあと数ヶ月、海台クラストが市場に出れば、新たな競争の始まりだ。海底資源に興味を示している企業はファルコン・マイニング社だけじゃない。このプラットフォームがパンドラの箱を開けた。そこから先は『神のみぞ知る』だ。お前の出る幕はねえ」

【リファレンス】 現代の鉱業問題

近年、注目を集める『紛争メタル Conflict Mineral』。現代文明の根幹を成す稀少金属の多くが第三国で産出され、武装グループの資金源になっています。日本でも時々、講演会や展示会が催されているので、機会があれば是非。
ゴルゴ13でお馴染みの 鉱業問題が手軽に分かる『コルタン狂想曲』と『ブラッド・ダイヤモンド』 でも詳しく紹介しています。

興味があれば、このあたりの本も読んでおきましょう。鉱業と人間社会の関わりについては次の章で取り上げています。
ルポ 資源大陸アフリカ 暴力が結ぶ貧困と繁栄 (朝日文庫)

ボコ・ハラム:イスラーム国を超えた「史上最悪」のテロ組織

第三章 海洋情報ネットワーク Kindle Unlimited 版
4.5

稀少金属『ニムロディウム』の発見により、宇宙開発技術は劇的に向上するが、世界最大のニムロデ鉱山がファルコン・マイニング社の手に落ちたことから一党支配が始まる。 海底鉱物資源の採掘を目指すアル・マクダエルと潜水艇パイロットのヴァルター・フォーゲルとの出会い、生の哲学と復興ボランティアのエピソードを収録。
Kindle Unlimitedなら読み放題。

初稿:2019年11月19日 @ 9:40 PM

>海洋小説『曙光』MORGENROOD

海洋小説『曙光』MORGENROOD

宇宙文明の根幹を支える稀少金属ニムロディウムをめぐる企業と海洋社会の攻防を舞台に描く人間ドラマ。生きる道を見失った潜水艇パイロットと愛を求めるフォルトゥナの娘の恋を通して仕事・人生・社会について問いかける異色の海洋小説です。
Kindle Unlimitedなら読み放題。
Amazonの海洋学ランキングで一位を記録した異色作。

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